それはZEKEの「空賊十字」を見た時に始まっていた。
丁度一年前、hideトリビュートアイテムの記事の中でさりげなく言及していたことを憶えておられる方はいないだろう。
シャンデリア型のペンダントとか空賊十字とか、10万オーバーの予算でなんかそろそろ一点豪華主義のペンダントをと思ってはいたけど・・・
ようやくそれが実行されたわけだ。
空賊十字そのままで良かったなら、その時に買っていたことだろう。



空賊十字をベースにしているが全面的に改修されているペンダントヘッド。
大きく真赤なガーネットを中心に放射状のピンクゴールドスカルが並ぶ様は旭日旗を思わせる。その上に武人の象徴、鷹が大きく翼を広げるこのシルエットは、軍の勲章のようでもある。
まず、鷹は従来あったパーツそのままではなく、エースキラーで使用された型を元に翼を起こし、大きくしている。
翼も、起こしたと言っても元の空賊十字に使われているもののままでなく、微妙に角度をつけているのが、にくい。
もともとは赤銅を使用したいと考えていたが、実現できなかった。そこで変更したのが淡い光のイエローゴールドなのだけど、結果的によかった。
実はYGといえばもっと濃くて朱色っぽいモノだと思っていた。それがちょっと苦手というか、あまり洗練されていないように思えてこれまで使用しなかった。
しかし、曰く近年は従来よりも黄色いのが主流だとか。
時計なんかはまだエグイ金色のが多いと思うけど、確かにその辺の金色と比べるとだいぶ大人しくて上品だ。
ついでに余談、これまで「あんまりピンクって程でもないよなー」と思っていたピンクゴールドが、確かに赤いことがわかった。
渋い赤味が際立つ、K10PGのスカル。K5やK10は程よく燻しも入るし、ギラギラしていないので、案外くどくない。
僕は貴金属的価値を求めてはいないので、純度なんて気にしない。良い色がでることが何より。
そして土台はやっぱりシルバー。この白い輝きあってのカラーメタル。
十字を米字にしたのは制作者の小野寺氏発案。その考えはなかったが、なるほどバランスが良くなっている。
従来品で唯一気になっていたのが、結果的に縦長になるためにレイアウトの重心(中心点)が分散し、ややバランス感を欠いていたことだった。
そのため事前に考えられたカスタム案は、いずれも十字の横軸の上下、特に重心が来るべき上部の空間をどう埋めるかに主眼が置かれていた。
出来上がったコイツは、石を大きくしたことと、下部の密度が増したことでレイアウトの重心がはっきりして、座りが良くなっている。
サイズ比率で鷹をメインにしてしまった方がレイアウトのバランスだけなら良いかもしれないが、それは意図と違ってしまう。
細かい部分では、この土台もただ重ねただけじゃない。裏の細工もさることながら、実は空賊十字よりも厚みがある。
結局のところ、ラージスケルトンクロスの土台を元に起こして貰った。
つまり、形こそ空賊十字の面影を残すが、ほとんど別パーツをワックスからリメイクしてもらっているのだ。面倒な仕事させて申し訳ない。おかげで、素敵なものが出来てしまいました。
さて、久々に一点ものを入手したわけだけど、先日宝飾の本を読んでいて思ったことがある。
一口にアクセサリーと言っても当然ながら色々な価値観がある。
まだまだ宝飾と言う分野については素人もいいところなのでとてもじゃないが何も語ることは出来ないのを承知で記述する。
シルバーアクセ、というものは基本的に「ブランド」として発信される。定義について哲学する余地はあるが、平たく言ってしまえばそれは商標だ。ビジネスだ。
しかしながら制作者には「クリエイター」を自負する人が少なくない。ひょっとしたら貴金属店なんかよりずっとその色が濃い。
けれど、実際に自分の名前や作家名で作家活動を行う人は極めて稀だ。
実も蓋もなく言ってしまえば、作品と称していても10中8,9、既製品として売られているものは複製品だ。
誤解されたくないのは、それを軽んじているわけではない。シルバーアクセというものは主として比較的手ごろな価格で手にとれる流通形態を取っているファッション商品であるのが厳然たる事実であるというだけのこと。
その意匠をクリエイティブでないと言いたいわけではない。それは衣服のブランドやデザイナーと同じことだ。
今回オーダーをかけるに踏み切ったのは、下北沢ストローカーにZEKEの制作者小野寺氏が常駐するようになったことが大きい。
このアイテムは、全くの作者の創作作品でもなければ、流通用商品でもない。作者の持つものと顧客のニーズが相互作用することで生まれたものだ。
曰く小野寺氏は別に芸術活動をして行こうと思ってブランドを運営しているわけではないという。それゆえに非常に柔軟に発想のアイデアを交換してくれたし、おかげで僕は大変満足することが出来た。
ロードキャメロットのネックチェーンのジョイントに合わせてバチカンをこさえてもらうほど、細部まで要望とそれを実現するアイデアの提供を頂けた。
これは純粋な作家の創造性とはまた違ったプロセスによる結果なのかもしれない。
そういう意味では「宝飾芸術」のカテゴリーとは異なるのかもしれない。
がしかし、その結果顧客の僕はとても気に入るアイテムを手に入れることができたし、出来上がったものは高い完成度であると自負もしている。
そこに刻まれたZEKEの刻印(Brand)は確かなブランド価値を僕に示したと思うし、作家さん自身への信頼や贔屓にも繋がったと思う。
コミュニケーションを取りやすい環境や、作家自身のパーソナリティ、それもまた一つの価値基準になりえる、というお話。
だからってただの技術屋だったら、もちろん頼みはしなかっただろうけれど。
仕様
制作:ZEKE
寸法:55mm×36mm×8mm(奥行はバチカン部除く)
重量:約40g
素材:Silver925(土台),K18YG(鷹像),K10PG(スカル)
石:ガーネット・ラウンドカボション
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