書かなくなった最大の理由は、すでに市場がある程度定まってきて、大きな状況の変化はない…と思ったことによるのだが、ふと気づいてしまったことがある。
例によって決してポジティブな話にはならないだろうことをまず初めにアナウンスしておきたい。
題材はタイトル通り、近年見られるクリエイターブームにまつわる内容だ。
クールジャパンしかり、増えていくマーケット系イベントしかり、そしてインタラクティブメディアの隆盛によってきたアマチュア創作の活発化も含む。
これらすべてにおいて、最大の立役者はやはりソーシャルネットワークの普及によって発信の敷居が下がったこと、リーチが広がったことだろうと思う。
従来は教室やサークルレベルで地域に草の根的に行われていた手芸や創作が、こうした発表媒体の獲得とそれに伴って知られてきたフリマ系のイベントへの参加者増、それを取り込もうとしはじめた企業・行政のクールジャパン運動。これらはすべてが絡み合っているだろう。
またクリエーションというのは一つのシンボリックなものとして同好の士を作る旗印にもなる。○○クラスタなんていう言葉が一時期良く見られたのをご存知の方も多いだろう。
近年ではスチームパンクなんかが勢いを持っているが、これらは一部の愛好家に始まってそれが一定のリーチ範囲を持った瞬間急激に広まる傾向がある。
いやらしい話だが、勢いのついた波に乗るという気持ちが働くことも大いに関係するだろうし、それを今まではマス媒体が中心となって起こしてきていた。
勢いが収まった後に多少の心配はあるが、まあそこは牽引している人たちもさすがに右肩上がりだとばかりは思っていまい。望むところまでいけるかはともかく、まずは一定のジャンル作りができればと言ったところだろう。それはそれで有益であることを疑うわけではない。
しかしながらこうしたブログをこれまで休み休みながらやってきて、一つ大きな隔たりがあることを感じ始めた。
それはものづくりにおいても、ローコストオペレーションの波が来ている、ということだ。
かつてのEコマースでは各々がえっちらおっちらホームページを作って企業でも大変だし個人のクリエイターなんかもう手さぐりでやっていた。楽天のようなモールがそこで急成長をなしとげ、さまざまなECサービス供給者が現れる。それから時を経て最近になり、無料開設のネットショップができたり、インディー向けショップモールができたり、簡単な会員登録をするだけで販売登録ができるドロップシッピングサイトなんかもできた。
ちょっと作ったものをだれもが売り買いできる時代。フリマイベントは数を増し、専門性の高いイベントもずいぶん多くなった。
それは注目が下がる一方であったシルバーアクセサリーにも多少なり追い風なのかな、と思っていた。
そういう面もあるのかもしれない。しかし人々の見ているものは少しばかり違う気がしてきた。
以前よりデザインフェスタ等のイベントにあって本格アクセサリーは高価格帯ジャンルであった。もともとそういうのが好きな人との出会いになることは確かだとしても、そこでシルバーと出会うことが後の顧客化にどれだけ貢献するのか、市場への新規流入になっていたのかはもともと議論の余地を残していたのだ。
さらに言うなら、それらイベントが本業作家の発表媒体の一つというよりも、「出展者は年に何度かイベントで出てくる売り手」という認識になっているのではないか…というのをブースでの会話を耳にしていて思う。
そんなことがなんだというのか、随分と長い前置きになったが結論としてはこれである。「隆盛のマーケット系イベントはクオリティを求めていないのではないか」ということだ。
先に言っておくが、これからいうことはそうした作り物が悪だという話ではない。としたうえで話を進めたい。
敷居の下がった創作。これは歌や踊りや話芸でも大きな波としてあることはご存じのとおりであろうが、小物というのもまたとっつきやすい一つのジャンルなわけで、それは前述のようにもともと手芸として一定の地位を持っていた。東急ハンズやキンカ堂などの名前を聞いたことがないという人もあまりいまい。デパート祭事で生地市なんかがあると、マダム達を中心にたくさんの人が集まる。ああまだ家でミシンで縫ったりするんだ、とそれはとてもあたたかく思えることだ。
それはそれとして、まあそんないろんな流れの果てにハンズのパーツでつくったちょっとしたアクセサリーなんかをここ何年かで爆発的に見るようになった。これは本当に10年間デザインフェスタに通っていて流れがあった。
あえて意地悪な言い方をするなら、銀・金の鋳金+ロウ付けのアクセサリーが真鍮切り出しのアクセサリーになり、それが市販パーツ+紫外線硬化樹脂+ボンドに代わっていった、というようなことだ(乱暴にまとめれば)。
真鍮の台頭には貴金属相場の高騰という要因があったろうが、原型師や彫金師が多かった時代から手芸趣味の人たちの時代になって行った、そして敷居が下がり手芸人口が増えた、平たく言ってしまえばそういうことだろう。
するとその流れで増えたイベントもWebもそういった人たちの一種の交流会の趣を帯びてくる。当然のことだ。
半ば制服のように似通った格好だったり作風だったり、むしろ好んで寄せていく。もっともそこはぶっちゃけていうと個人作家の多いシルバーアクセの世界もまあそれは変わらないが。スカルのリアル志向とか眼球流行りとか。
それゆえというかなんというか、率直に言うとどのジャンルの何を作っているかが重んじられ、そこに技術力や商品としての完成度はあまり求められていない様子がうかがえる。
はっきり言ってハンズのフリーサイズリングベースで作った指輪が市場に出るブランド商品になりえるわけがない。いいとこ観光地のお土産小物だ。
でもたぶん、多くの来場者はそれでいいのだろう。彼らはなにもアート見本市にきているわけではなく、そういうイベントという体験にお金を出している。
だからお土産っぽくてもいいし、もっといえばサブカルアイテムというのは半分コスチュームであって、それはファッションジュエリーではなくコスチュームジュエリーであるから、感覚的にはショッピングモールによくある低価格アクセサリーショップのそのクオリティで特に問題はないのだ。貴金属を求めているわけではない。
コスプレ衣装において縫製のピッチがどうとか裏地の触感がどうとかまでは、きっとたいていの人は言わないだろう。映像の撮影衣装なんかだって見えないところは映りをよくするためにつまんで留めてたり切って貼ってしてたりする。
そこに工芸的高度さを求める層はいないことはないだろうが、少なくとも僕が自分の目で見える範囲において、決して多数派ではないし、そうでなければ出展者の顔ぶれも違っているだろう。
シルバーを中心に本格派の数万円規模のアクセサリーの顧客というのの中には、半ばそこに財産を投入することにある種の価値を見出していたりする人も少なからずあって、特に特定の作家についている人はそのイベントでの目玉アイテムを獲得することに喜びを覚えたり、ファン筆頭になりたがるようなことがあったりするので、ここまでの話はなにもイベントにおいて大物が全く動くことがないよ、という話ではない。
そういう意味でファンに対する購買ブーストになるような機会ではあるかもしれない。
ただ僕個人としては、指輪のリング部分がハンズの輪っかにするのが合理的なあるべきローコストオペレーションだとは全く思っておらず、しかしながら時流はそれを是としていることへの複雑な思いがある。
確かにおいそれと買えないハイエンドモデルばかりを選ばなければならないとなると数を求めることが難しくなってしまうのは事実で、僕自身もう指も首も足りないし無い袖は振れないしで参ってしまうこともあるのだけれど、だからといって装着感まで込みで選び抜いたセレクトに、遠目で見ればそれっぽいからと言っておもちゃの指輪は着けられない。
それに僕もせっかくのお祭りで、ちょっとしたお土産みたいな小物を買っていきたいと思うこともたくさんある(だからバッジなんか割といっぱいたまってきている)。
しっかりとしたアクセサリーにまだ手を出していないなら、なんだこういう『手作り』もいいじゃない、といってもうその輪から抜け出すことはなくなる、というのも想像がつく。パッと見かわいく見えるのも多いし。ちゃちな作りでも着用に障るのでなければ別にグレードを上げる理由にならないだろう。
そうしたコスチュームジュエリー類をまがいものだと見下すことは容易いけれど、それって本格時計愛好家がクォーツ時計をコケにしたり、自動車愛好家がエントリークラスを軽んじるようなことと同じで、どっちが正しいということではないのだと思う。究極的には「じゃあ値段何とかせい」って言われたらそれまでだし。
だから実はSNS上で注目されたり、イベントで人目を引いても、このものづくりの波がシルバー再興への道に繋がっているかっていうと、これって案外違う方向が台頭してきているってことじゃないのかな、と思ってしまったというわけ。
一見すごく親和性があるジャンルが伸びているように見えて、横並びのブースを見て本当にそれでいいのかな?なまじハイエンドな価格がついていることで悪目立ちにならないかな?縁の遠さを再確認させないかな?なんて具合に、心配が心配を呼んでしまうのだった。
だってさ、100均で売ってるような小物に接着剤で歯車つけてスチームパンクですなんてのに周りは誰もNOを叩きつけてる様子がないんだぜ?なんなら出展者がお決まりの格好さえしていれば仲間だと言わんばかりで。それってやっぱ、サークル活動なんだよ。ね。
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