それは当然、多めの予算を投入するからには綿密な擦り合わせをしたいからなのだが、実際世間のそういったオーダーへの取り組みはどうなのかとふと思った。
ネット上でオーダー品をアップしているユーザーがしばしばいるけれど、個人的な感想として勿体ないオーダーが少し多いように感じることがある。
なんというか、カスタムしたいがために無軌道に既製アイテムを合体させまくるようなものが結構多くて。勿論組み合わせというのはカスタムの一つのやり方だからそれ自体をどうこう言うわけではないのだが、もしかしたら自分のような発注のしかたはあまりないのかもしれないと思い、参考までに提案してみようと思う。
具体的に、前回のアポロンペンダントのケースを例にしてみよう。
あまり全部見せるのもどうかと思ったので文字が読みにくいサイズにしているけれど、あしからず。
ここではこちらからの提案アイデアとして、具体的には覆輪、弦の素材変更、石変更、それに伴う石裏の抜きを明示している。
また相談事項として
1つ、カービングを追加できないか、やり方はブランド判断でやってほしいが、葉のテクスチャなどはどうだろうか、という形で提示している。
2つ、背面が平らなのが好きでないので、縁取りを入れてほしいという依頼。
このシートを元に制作サイドに一度投げてみて、アイデアを交換した。先方から頂いたのは、
・カービングを追加するのは可能だが、光る部分が少なくなる
・上記の対策の一つとして、石をファセットカットにしてみるのはどうか
・裏面は、線彫りの模様がいいのではないか
頂いた回答からまずファセットカット、裏面を採用とし、さらに膨らませて、
・アポロンは弓矢の神でもあるから、鏃のパーツを付けられないか(光る部分も増えるし)
と追加の発想を提示。その結果、
・下部の葉を鏃の形にアレンジし、鏡面にすることでいいバランスが出せるのではないか
という落とし所にたどり着いた。
これにより、フルオーダーと単純カスタムとの中間というか、ワンメイクカスタムのようなオーダー品に仕上がったというわけだ。
こうしたやり取りをスムーズに進められた背景には、ちょっと自画自賛のようではあるが、最初のオーダーシートが良かったのだと思う。
細かく見て行けば随時仕様変更が入っているのだが、軸となるデザインイメージ・意図を共有できたこと、あくまでもクリエイター本位の仕上がりを目指したことが良い結果に繋がったと思う。
正直なところこうしたオーダーを店頭経由でするということはあまり現実的にイメージがわかない。
ペンダントをラペルピンにしてくれとか、石入れできるかとか、ブレスをネックレスにしてくれとか、そういうことはあるかもしれないが。
もしかしたら、こうした原型にまで手を入れるようなオーダーというのはそもそもできるという発想がない人も多いのかもしれない。カスタム事例をウェブにアップしているようなブランドでもない限り。
工房系のブランドにはオーダーサロンを構えているところもある。どちらかといえばロイヤルティ(忠誠度、愛着)の高いカスタマーがつきやすいだろう。
一方で店頭、特にテナントならなおさら、基本的にあり物メインになる。お客様のお好みに、というような売り方をしている店舗はあまり見ない。
あっても、これとこれを組み合わせて、とか、石入れとか、やっぱりそういうのが基本になってくる。個人的な経験論ではあるが。
おそらくオーダーを受けて店頭である程度の図面を起こして発注、などというプロセスを取っている店舗はないか、あっても希少だろう。自分の経験上でも、手書きラフ程度だったと記憶している。その辺はやはりハイジュエリーの世界のようにはいかないのが現状だ。
例えば自分が店舗をやるならば、オーダーサロンとしてのクオリティも持った店にしたいな、と思った。顧客の要望と制作者の意図を取り持つプロデューサー、あるいはコンサルタント的立場、販売店ならばそうありたいものだ。
とまぁ、そんなことを考えるのも、「オーダー対応」に一つの可能性を感じているからに他ならない。レギュラーアイテムの尊重とのジレンマをずっと抱えていたが、そのオリジナルのクリエーションをベースに顧客それぞれにワンアンドオンリーな体験を提供するというふうに考えれば、これは一つ価値がありそうだ。
まして非消耗品、非日用品、といかに高ロイヤルティカスタマーであっても永続的かつコンスタントに売り続けることの難しい商材である。
彫金の腕があるブランドならば、お手持ちのアイテムに後付けカスタムを施すというのもある。新しいアイテムを売りつけるだけが取引ではないし、愛着ある使用品を生まれ変わらせてあげるというのも悪い話ではないから。
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