2011年01月10日

真鍮の提案

銀価格が相変わらず高い。
このブログを始めた頃から比べると、現時点で銀のグラム単価は3倍強にまで上昇していることになる。
90年代のグラム平均20円という相場は安すぎたと言えるかもしれないが、80年代までは円相場がドル200円以上の時代だ。ということは世界的にも銀価格は跳ね上がっていると言える。
90年代オンス当たり平均5ドルだったところが、いまや30ドルである。この5年でグラム2000円も上昇した金に引っ張られての投機的な高騰だろうと想像できる。投資はしないので話半分に思って貰って良いが、金が高騰し金銀の価格差が一時かなり開いたあと巻き返している値動きからしてそんなところだろう。太陽電池程度の需要増でこうも乱高下するものではないと思う。
どうもアメリカでの金融緩和による資金が流入しているようだが、一般消費者にしてみればデフレのさなかにあってこの高騰はなかなか苦しいものとなるだろう。

もちろんそれはメーカーにしても同じことで、特に手広くやっているブランドは在庫リスクもひとしおと言ったところだろう。もともと高価格帯のところならまだしも、薄利で売っているところは影響直撃のはず。
しばしば銀の値段に対し高いといわれるシルバーアクセだが、なんだかんだで50円の差×20グラムのアイテムなら銀原料費だけで1000円変わる。10,000円台のアイテムでは到底飲みこめる変化ではないし、全体の購買数が減少すれば、必然1商品当たりの利益率も上げなければならない。
顧客にとってはたまったものではない。

そんな中、代替品というわけではないが近年充実してきているのが、真鍮製のアクセサリー。
元々貧者の金と呼ばれ、コスチュームジュエリーの素材として用いられてはいた。森村誠一の小説にもカトマンズと言われる偏屈な真鍮アクセサリー職人が出てくるくらいで、そう珍しいわけでもない。
しかしクロムハーツ以降のメンズアクセサリーのジャンルにおいては、シルバーが基本にあったといっていいだろう。女性のコスチュームジュエリーのような素材に対する割り切りはメンズ市場では見られない。
数年前のシルバー活況期は、AMP、ANIMAL-WORSHIPといったアンティーク・ビンテージ調のブランド、BIG BLACK MARIAなどフォークロア系のアイテムを中心に真鍮アイテムが存在していた。以後、金相場上昇の影響か、徐々に浸透していく過程が見て取れた。
そしてこのところそういった、乱暴に括ってしまえばマリア像をモチーフに使用する様なブランド以外にも、同じデザインをシルバーバージョンと真鍮バージョンの2種で提案する様なブランドが増えているように感じる。
この市場ではどちらかというと廉価版となる傾向のあった真鍮アクセサリーが、今やメイン素材の一つとしてその地位を確立しつつあるのではないだろうか。

そこにきていよいよと言うべきかはわからないが、完全に真鍮を主役にしたアイテムが現れた。
001-021.jpg
ブランド名をOld Continental Traditionと言う。
写真を上げておいてなんだが、我が家の照明では陰影が出過ぎて現物に忠実な画が撮れなかったので、ディテールはリンク先の公式画像を参照されたい。

こちらのアイテムはそもそもから真鍮を素材として企画されている、言わば「ブラスアクセサリー」だ。コンビネーションでもなければ、シルバーバージョンもない。
このブランドの出自はと言うと、先程少し名前の出たANIMAL-WORSHIP SILVERがアンティークを意識したデザイン作りをしている中から派生したレーベルとなっている。

まず率直に言って公式の写真のデザインに魅力を感じ、次にその価格を確認した時、僕は迷わず注文してしまった。
僕は既にかなり高クオリティ、高コストのアイテムを所有している。従ってコストパフォーマンスで着用するアイテムを選ぶことはまずあり得ない。指の数は決まっているのだから、低コストアイテムがその座を射止めるのは至難の業なのだ。
しかしこのコスト感は、シルバーやゴールドをすでに愛用している僕にとっては、「トライする」ハードルを下げることに大きな役割を果たした。
「真鍮のみ」で出来たアイテムはあまり持っていなかったが、デザイン性の高さ、またそれを表現する素材としてこの場合心中がベストであるように見えたことから、少し失礼な言い方かもしれないが「とにかく持ってみよう」という気持ちにさせられたのだ。着用とは別なレイヤーでの所有欲と言えるかもしれない。
アクセサリーを作品、クリエーションと考えた時、それは望ましいことではないのかもしれない。ただプロダクトとして捉えるならば、それも一つ重要な要素だろう。一点ものの美術品とはそもそも向かう方向性が違うのだ。
10,500円というコストを実現するためには、スケールメリットが必要だ。スケールメリットを出すには、コストを抑えて少しでも手に取りやすくすることが必要だ。それだけではない、このアイテムは仕上げに非常に手が掛けられているが、このコストでそれを実現させるためには出来る限りの合理化が必要だ。
このアイテムではこのようにして実現していた。
001-022.jpg
サイズバリエーションを普通に展開しようとしたらサイズの数だけ型が必要になる。全面レリーフという造形では、鋳造後のサイズ変更も困難だ。しかしこのような形のフリーサイズ形状にすることで、サイズ展開を容易にし、デザイン面での制約もクリアした。
良く考えられている。

アンティークレリーフという抽象モチーフは、デザイン面でも間口が広い。またなにしろ真鍮の持つ経年変化の魅力、アンティークの趣はシルバーとは違ったものがある。
シルバーアクセサリーも随分と市場が深掘りされたが、それによってかえって先鋭化し、「好きな人だけが好き」の傾向が強まってしまった部分がある。「らしさ」のしがらみに嵌ってしまっているように見受けられる作り手も少なからずいる。
万人受け、キャッチーというのと間口の広さは必ずしもイコールではない。見ての通り、決して凡庸なデザインでも単純な造形でもない。だが、「銀オタ」っぽさがない。それが強みだ。
また真鍮という素材そのものの魅力を再度示しておきたい。貧者の金とは言うが、代替品としてではなく、真鍮ならではの魅力も多分にある。温かみがある、と称されることの多い柔らかな金色は、真鍮ならではのものだ。
経年変化で出てくる味は、ベースの金属としての魅力では金を凌駕するように感じられることもあるだろう。骨董品や古い家具類に使われた真鍮のなんとも言えない味わいは、金では出し得ないものだ。
従ってアンティーク系の伝統的デザインとの相性は抜群に良く、そうしたブランドでの使用率が高いのは当然のことだろう。
だがもしかしたらそれ以外、逆にモダンなデザインにも今後使われてくるかもしれないし、そのポテンシャルがあるかもしれない。古美の味わいだけが真鍮の持ち味というわけではないのだから。


周知のことかもしれないが、僕はもともとワンオフ志向がある。
にもかかわらず今回このような既製アイテムを半ばお勧めする様な形で紹介したのは、真鍮アクセサリーという市場の変化を書き残したかったことが第一である。
それだけではないが、それはまた次回詳しく記したい。
ただ一つ言えることは、普遍性をもったデザイン、かつ高いクオリティならば、「世界にたったひとつ」でなくても良いな、と思えたということだ。今回はアイテム単位で「広く楽しまれて欲しい」と思った、これは少し価値観のベクトルが違う。

そしてできるならば、アクセサリー市場を枯らさないためにも(正直今のムックを読むと空しくなる!)今回のような出会いが今後も出てくることを願いたい。
そのひとつの形として、真鍮という素材の持つ魅力、今回はその可能性のお話。
今はまだ、シルバーが専門のところが多いだろう。真鍮、あるいはその他の金属を用いたアイデア、魅せ方はまだ掘り下げていく余地があるのではないだろうか。


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posted by 遼 at 04:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | アイテム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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